kmizuの日記

プログラミングや形式言語に関係のあることを書いたり書かなかったり。

構文解析歴20年近くになりました

まえがき

 タイトルが一体何言ってるんだお前は、という感じのものなのですが、初めて構文解析器ぽいものを書き始めてから、たぶん20年くらい経ったかなくらいの意味です。私を知っている方はご存知かも知れませんが、修士~博士にかけての私の研究テーマは、Packrat Parser/PEGで、博士論文もそれ関係でした

 で、博士号取った後、査読付き論文は一本も出していないのですが、中田育男先生の、ISO-Rubyパーザの試験実装をお手伝いしたり、なんだかPEGや構文解析に関する論文の査読をしていたら、去年からプログラミング研究会の論文誌編集委員になったりしています。最近、まともに(査読付き)論文書いてない私がこんな立場引き受けていいのかなーと思うものの、構文解析という分野はとてもニッチなので、査読できる人が少ないせいか、構文解析に関する論文は、私に査読の話が来ることがしばしばあります。

 私が型システムが専門とか言ったら、本当の専門の研究者に殴られそうなのでとても言えませんが(とはいえ、勘違いしてる人はいそう)、構文解析に関しては、知り合いのUさんとか複数名の研究者に「水島さんみたいな構文解析屋さん~」って感じで言及されることがしばしばなので、一応そこの専門性はあると言って良いのでしょう。凄く自信がないですが、たぶんそうです。

年表

  • 2000-2001年:

この頃は高校2年生で、記憶が確かなら、初めて数式インタプリタを書いた時期です。私にとっての構文解析元年とでもいいましょうか。要は、1 + (2 *3)とかのカッコ付きの数式をパーズして、解釈して計算するやつですね。今だとこの手のは2時間くらいあればかけるのですが、当時の自分は1週間以上かかった気がします。

確か、初めてJavaCCを使って、ミニ言語を作った記憶があります。関数定義があって、あとは整数とか配列くらいしか扱えないものだった記憶がありますが、一応ミニ言語と言ってよいものだった記憶。

情報特別演習Ⅰというものがあって、要はプチ卒論なのですが、このときに、初めてOnionを作りました。この時はOnionソース→Javaソースへのトレンスレータですが、この頃に、「ある程度複雑な文法」を自分で表現する能力は身につけた気がします。ついでに、コンパイラの授業でtiny-c作れって課題があったのですが、yacc + Cがめんどくさかったので、JavaCCでいいかと教員にたずねて、そのまま提出しました。

情報特別演習Ⅱで、2003年に作ったOnionをバイトコード出力をするようにしたのですが、この時にさらにOnionのパーザをいじくってあれこれしてました。同時期に産業技術総合研究所でバイトをしていて、プログラミング言語関係のプロジェクトをお手伝いしてました(この時はパーザは書かなかったかな)

卒論で、「演算子オーバーロードはマクロとみなすとよい」って主張で、左辺値型とかを型として扱える演算子オーバーロード機構を適当に考えたのですが、その時は具象構文考えるのがめんどくさかったので、Scheme上にその言語を実装しました。ただ、Onionの改良は続けていたので、より複雑なパーザを書くようになっていました。

  • 2006-2007年度: 筑波大学大学院博士前期課程時代。

確か、指導教員のM先生に、「Packrat Parserというのがあるらしいんだけど、論文読んで教えてくれない?」って唆されて、論文読んでゼミで発表したのですが、なんだか面白そうだなーと思ったのがきっかけで、その後Packrat Parsing/PEGの研究を始めるきっかけに。2007年度には、プログラミング研究会でカットに関する論文を発表したりとか、構文解析に関する既存研究をサーベイしたり。この時に、RubyのString Interpolationぽいものは字句解析レスの方が綺麗に書けるとかいう事を気づいたりしました。

  • 2008-2010年度: 筑波大学大学院博士後期課程時代。

D1とかD2の時は、やたらScala関係にのめり込んでいて。その分パーザに関する活動は停滞気味でした。この時にもうちょっと色々論文書いときゃ良かったと今になって思います。D3になって、PASTE'10に論文通したり、プログラミング研究会にまた別のPEG関係の論文通したりとかあったのですが、それD1、D2の時でも頑張ればできたのではと当時の自分にツッコミたい。

ちなみに、研究過程で捨てちゃったアイデアなのですが、カットの自動挿入をするときに、LL(*)ぽい手法でやるのとかは、今思えば突き詰めてやればいい感じの論文になったのではないかと思うことがあります(PEG -> REGEXに保守的に変換してから、DFAを構築して、∩をとるみたいな感じでやって、試験実装もあったのですが、どうにも中途半端なので、途中で捨ててしまった。割とLL(*)とアプローチは近かった記憶)。

幸い(?)PASTE'10の論文は,PEG関係の論文でそこそこ引用されたようで、その後数年間に渡って、時々、PEGやってる人から、私に問い合わせが来たこともあったりしました。というか、去年辺りの論文でも引用されてたりします。非常にニッチな分野ゆえでしょうね……。

  • 2011年度: 社会人1年目時代。

正直、新社会人になってストレスがめっちゃ高かったので、色々それどころじゃなかったですが、構文解析関係の催しは何度か出てた気がします。

  • 2012-2013年度: 社会人2~3年目時代。

実は、PEGに関するサーベイ論文を書いてほしいという依頼が某所から来ていたのですが、当時の自分は体調を崩しがちで、結局書いていた途中の論文は世に出ることがなかったのでした。この時に書いておけば、PEGをもっと布教できたかもしれません。

ただ、中田育男先生から、ISO Rubyの試験パーザーを書いているのだけど、色々わからないから教えて欲しいって話がメールで突如来たので、「あの中田先生から……」とビビったのを覚えています。で、ヒアドキュメントとか配列リテラルとか、めっちゃややこしいところの実装は私が代わりに書いてメールで送ったり説明した記憶があります。この時に、「あー、やっぱRubyの文法はウルトラ複雑だ」と再認識しました。

  • 2014年度~2018年度: 社会人4年目以降。

時々、国内の論文(英語のも含む)の査読を引き受けるようになったりしたのですが、前職のときも(今もですが)、割と査読のために学会出席するのも仕事(ということにしてもらえた)だったので、ちょくちょく出ていました。さすがに何を査読したのかとかは言えないですが、PEGに関する研究は未だに続いているんだなーとか実感してました。あとは、思いつきのMacro PEGをSwoPP 2016で発表したり(Macro PEG自体は思いつきにせよ、割と面白いと思っているので、査読通せる程度の論文書こうかなーと未だに思っているのですが、書けていません)。

  • 2019年度:

確か、この年の頭に、プログラミング研究会の編集委員(任期4年)に推薦されたのですが、今考えても、なんで推薦されたのかと不思議に思います。査読をちょくちょく引き受けたのが評価されたんでしょうか。正直、編集委員と言っても、年1回の開催以外は責任持つ必要あまりないので気楽なものですが、今までよりは責任が必要な立場になった気がします。

あと、構文解析の分野でとある知見がたまって来ていたので、論文を書こうと重い腰をあげたのですが、結局、色々別件で忙しくなったので、棚上げに。

  • 2020年度:

転職先(現職)の会社も、割と裁量が効くのですが、研修とか、色々教育方面で責任持たないとって仕事が増えて、それに忙殺されてました。ようやく、最近、その辺の作業負荷が下がったので、そろそろPEGに限らずですが、構文解析関係で持ってるネタでどっかの論文誌/国際会議に投稿しようかと思っています。

感想

びっくりする程、論文書いてませんね、正直。人生は短いので、明日からでもとりあえず、論文書いていこうというのが思ったことです。国内では、一部ですが、学会運営側の立場でもあるので、こういうのは不謹慎なのですが、国際会議のオンライン開催が増えれば、もうちょい気楽に国際会議に論文投稿できるのに、と思うことも(国内ならともかく、国際会議は旅費の面からちょっと会社に出してもらうのが厳しい)。

あと、細かすぎて書ききれてませんが、社会人になってからも、ほぼ毎年、なんか新しい言語の構文解析器は書いています。特に、PEGで割と大きな文法を記述するのにかなり慣れたので、yaccとかのLALRよりも、JavaCCとかのLLよりも、PEGの方がよっぽど早くパーザ書けるようになりました。

06/16(火) Scala関西勉強会 - 2020年06月版で「Scalaで作る!プログラミング言語」の発表をして来ました

 コロナ禍の影響で、各種イベントが軒並みオンライン開催になった昨今、ちょっとオンラインイベントで発表してみようということで参加することにしました。

connpass.com

 ちなみに、Scala関西では、Discordを使ったオンライン開催をされているようです。私もDiscordで発表をするのは初めてだったので、少し緊張しました。発表資料はこちら:

docs.google.com

 Scala勉強会なのに、結果的に大半の時間が、Scalaというより自作のプログラミング言語の紹介になってしまいましたが、楽しいひと時でした。どうもありがとうございました。

 ところで関係ないですけど、オンライン勉強会で「~~知ってる人?」とかいう反応を聴衆からもらいたい場合は、発表しつつ、チャットルームにリアクションを促すメッセージを流すと効果的なのではないかと思いました。しゃべりつつ別途文字打ち込むのは、オフラインだと結構曲芸ですが、オンラインだと割と現実的な気がします。

【月1言語企画】文法がVBぽいだけのプログラミング言語VBLを作ってみた

3〜5月にかけて、月1プログラミング言語企画が続いていない、これは良くない!ということで、急遽お茶を濁すために作った言語です。基本的に、Klassicをベースに構文だけVBぽくした言語です。リポジトリは以下です。

github.com

次のような構文が使えます。

変数宣言

次のようにして書けます。

Dim x = 1 // x As Integerと同じ

型を書いてもいいです。

Dim x As Integer = 1

While式

元の言語が言語だけに、Whileも文ではなく式です。

Dim i = 0
Dim result = While i < 10
  PrintLine(i)
  i = i + 1
End While
PrintLine(result) 

ちゃんと、End Whileで閉じるところなどはVBを踏襲しています。

If式

やっぱりIfも文ではなく式です。

Dim i = If x < 10 Then
  1
Else
  2
End If

ちなみに、現状は都合により、Elseは省略できません。

Foreach式

VBぽいForを実装するのも難しくないのですが、パーザ以外にも手を入れなければならずめんどくさいので、代わりにForeach式があります。

Foreach i in [1, 2, 3, 4, 5]
  PrintLine(i)
End Foreach

関数定義

関数定義は Function ではじまり、 End Function で終わります。

Function Add(x, y)
  x + y
End Function

変数宣言と同様に型を書いても良いです(同じ意味です)

Function Add(x As Integer, y Integer) As Integer
  x + y
End Function
PrintLine(Add(1, 2))

サブルーチン定義

サブルーチン定義は Sub で始まり、 End Sub で終わります。

Sub Put(x)
  PrintLine(x)
End Sub
Put(1)

同じく、型を書いてもいいです。

Sub Put(x As Integer)
  PrintLine(x)
End Sub
Put(1)

その他にも、なんとなくVBぽい構文をいくつか実装していますが、とりあえず今日はこんなところで。

ちなみに、こういうEnd FunctionとかEnd Whileとか、対応するキーワードが指定されているタイプのやつは、文法の衝突をあんまり考えなくていいので、パーザ書くときにやはり楽ですね。

毎日ウォーキング(例外無し)を始めて10日経ちました

 新型コロナウイルス関係で、2月下旬頃からほぼ完全リモートが続いているのですが、運動不足がいい加減ひどいので、毎日必ずウォーキング習慣というのを始めてみました。ルールは簡単で

  • 毎日必ずウォーキングをする(例外は認めない)
  • 時間があるときは1時間、無い時でも最悪20分は確保する
  • 朝が望ましいけど、できなければ夜でも歩く

 という感じです。で、5/4(月)から、毎日4~5kmくらい、淡々と歩いていますが、結構いい点が色々あることがわかってきました。


  • 体力がついた(戻った)

 当たり前ですが、毎日歩いていれば体力がつくので、リモートワークでも疲れにくくなりました。

  • 寝つきが良くなった

 ちょっと不眠気味でしたが、だいぶ改善しました。身体動かすことで疲れが出るのと、朝日をちゃんと浴びてるのが大きいのでしょうか。

  • 肩こりが顕著に改善した

 その前は肩こりでめっちゃ悩んでましたが、昨日今日くらいは肩こりがあまり気にならないくらいに改善しました。

  • 姿勢が良くなった気がする

 歩くときに背筋伸ばすように意識しているのが大きいのかもですが、椅子でも背筋伸ばすのが普通になってきました。

  • その日の作業効率が良くなった気がする

 歩いている間に、今日どうしようかなーとか、昨日ここが良く無かったなーとか、あと、普段バックグラウンドで考えてるのが表に自然に浮かんできているせいだと思うのですが。散歩毎日している研究者の逸話を時々聞きますが、納得です。

 という感じで、今のところこれで悪くなった部分がほぼないので、台風や大雨の日以外はずっと毎日続けて、どういう風な変化があったかを時々書いてみようと思います。まあ、やっぱり人間は運動しないようには出来ていないんだなと感じますね。当然ですが、効果は個人差がありますが、私の場合はこんな感じです、という感想です。

【月1言語企画】まだ実装されてないけど、関数名は決まってるという意図を表現可能な静的型付き言語Funtomを作ってみた

 こんばんは。今日は、月1言語企画の一環として作成したプログラミング言語Funtomを紹介したいと思います。

github.com

 というか、ついさっきプロトタイプができたばかりなんですが。

 基本的には、ほぼ自作のプログラミング言語Klassic

github.com

 をベースにしたのですが、一つやや特徴的な機能があります。それは、まだ存在してないけど名前は決まっている関数を呼び出すことができるというものです。幽霊呼び出し(Phantom Call)という厨二ぽい名前を付けてみましたが、使い方は以下のような感じです。

def myMap(xs, f) = {
  ?implementLater(xs, f)
}
myMap([1 2 3], (x) => x * 2)

 ここでは、関数myMapを実装しているのですが、「後で実装するよ」って旨を表現したいので、それを?implementLater(xs, f)と記述しています。このプログラムを実行すると、

Exception in thread "main" com.github.funtom.runtime.PhantomCallError: Phantom implementLater([1, 2, 3], <function value>) is called: 2, 3

 て感じで、付けられた仮の関数名と実引数を伴った例外が投げられます。幽霊呼び出しの型は今の所必ず'aみたいな多相型になっていて、式が書ける場所にならどこにでも埋め込めます。ちなみに、Klassicをベースにしているので、型システムはHindley-Milnerの拡張(ぽい)ものです。

 で、なんでこれを実装したかなんですが、動的型付き言語の利点の一つとして、実装途中のプログラムでも実行できるというのが挙げられるというのが背景にあります。実行パスによって、エラーが出る場合でもとりあえず途中までは実行できるってやつですね。その利点を静的型付き言語に部分的に取り込めないかというのがこの試みです。実際、条件分岐で、絶対に実行されないパスに幽霊呼び出しを置くと、何事もなく実行ができます。

 この機能はネタというか実際問題かなり欲しいものだったりします。特に、静的型付き言語で、「後で実装する」を表現するのに undefined とか ToDo() とか ??? とか、bottom typeを返す特別な関数を組み込みで定義(あるいはユーザー定義)してる言語は最近多いと思うんですが、そのへんをもうちょいカジュアルにやりたいのと、どういう実引数と名前で呼び出されたかの情報が欲しいのです。もちろん、Dynamicとかなんか、細工してそれぽく見せる方法は最近のメタプログラミングが強力な言語だと色々あると思うんですが、そういう小細工じゃなくて言語の組み込みでほしいってのが正直な気持ちです。

 なお、幽霊呼び出しは実際に呼び出されると必ず例外を吐くわけですが、この辺は、対応する実装が定義されていたら、実行されるみたいな機能も盛り込むともっと面白いかなと思っています(機能的には、幽霊呼び出しに対して、実装が存在するかルックアップするだけなので小一時間あればできそう)。

 これが2020年2月分の言語なので、4月中にあと2言語(3月分と4月分)を作らないといけないわけですが(と自分で決めたので)、なんか適当にネタを考えてみることにします。  

書評:プログラミング言語大全

プログラミング言語大全

プログラミング言語大全

  • 作者:クジラ飛行机
  • 発売日: 2020/04/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
   技術評論社の編集さんから、「プログラミング言語に詳しい人」枠でなんだか献本いただきました。ただ、タイトルを見た時点でそこはかとなく不安があったので、記述がひどいぽかったら書評は書かないでおこうと思いましたが、ぱらぱらと読んで、よく調べて書かれた書籍だと思ったので、ご紹介したいと思います。

 この書籍は、日本語プログラミング言語「なでしこ」や「ひまわり」の作者として知られているクジラ飛行机さんが、世の中に数多あるプログラミング言語の中で、(比較的)知られているものについて、

 といった側面から紹介するといった趣です。

オススメしない読者

 初めにこれを書くのはどうかと思ったのですが、読む必要がない人は確かにいるかなと思いましたので。

 まず、日頃から言語の公式ページとかあさって、どんなプログラミング言語があってどういう特徴があるかなどについて調べている人には、あまりオススメしません。特に、個々の言語の特徴についてもうちょっと突っ込んだ解説が欲しい!という人は不満に思う可能性があります。ぶっちゃけ言語マニアの人はあんまり読まなくてもいいです。

 あとは、型推論とか静的型とかに関してこだわりがある人は、「その型推論の紹介の仕方はどうなのよ」とか思ってしまいそうな部分があるので、ご注意ください(特に、静的型を型注釈ありきで語っている部分については、それどうなのと思う人が居そう)。Lisp系言語の扱いについても、一部もにょる人がいそうなのでご注意。

 また「容易度」「将来性」「普及度」「保守性」「中毒性」に関しては、著者の方の主観とはいえ、色々異論がある人も多いと思うので、そのへんは流して読むのが吉かなと。

オススメする読者

 普段、2〜3くらいのプログラミング言語は使えるけど、他にどんな世界があるのかをよく知らないとか、それぞれの言語の歴史や豆知識を仕入れたい人にオススメです。言語を多く知っていれば偉いというものではないですが、自分がまだ知らないけどこんなに色々なプログラミング言語があって、それぞれ違う利用シーンがあるんだ、ということを知ることができるのは意義があることだと信じています(特に、利用シーンについては、案外知っている人しか知らない事も書かれているので、参考になることも多いかと思います)。

 あとは、もっと多くのプログラミング言語を利用したことがあっても、最近どんな言語があるのかなーとかいうのが追えていない方にとっても、2010年代以降に登場した新しい言語が多数紹介されているので買う価値があるのではないかと思います。

 特に、今20台くらいの方だとあんまり知らないのではないかなという言語も数多く紹介されていましたので、色々な言語を知りたい若い人にもオススメできるかなと思います。

個人的に良かった点

 プログラミング言語を色々紹介するということで、Wikipedia日本語版みたいな中途半端な記述や、へんてこな記述がないかというのを危惧していましたが、ごく細かい部分を除いて、技術的な誤りはほとんどありませんでしたし、言語の歴史や利用シーン、特徴などについてもおおむね適切かと思います。

 コラムでは、普段、本では紹介されないような言語の側面にもスポットを当てており、参考になりました。

 また、技術的な誤りがないように、かなり細部に渡ってチェックされた形跡があります。たとえば、Javaについてクラスベースのオブジェクト指向を採用したと書かれていたり、「インタプリタは1行ずつ実行するのか」というコラムでは「インタプリタ型言語とされる言語において、プログラムと一行ずつ実行する処理系は現在メジャーではないからです」などという記述があったりという具合です。重箱の隅をつつけば突っ込めないこともないですが、概ね安心して読めました。

 トータルとして、ぱらぱらと読んで「あー、こんなプログラミング言語があるのかー」「こんな裏話があるんだ」といった感じで、読み物として楽しめるものになっているというのが率直な感想です(色々偉そうですいません)。というわけで、オススメです。

ちょっと行列作りますね言語Matlikeを作りました

注:この記事は、2020年1月にQiitaに投稿した自作言語Matlikeについての記事のリメイクです。アカウントを消して元の記事が全部消えたので、移植ではなくリメイクです。

はじめに

 私は、2019年12月から、1か月1言語計画というのを始めています。要はどんなダメダメぽい石ころみたいなアイデアみたいでも、中には原石もあるかもしれないということで、思い浮かんだアイデアをどんどん言語として実装していこうというものです。悲しいことに、2020年2月分、3月分が出来ていないままですが、その辺は今週にえいやっとなんかテキトーなものを作るつもりです。この記事は、2019年12月分の言語として作成したMatlike言語の紹介です。

Matlikeを作った動機

 Matlikeのキーワードは「行列」です。皆さんが普段から使ってるJavaやらPythonやらJavaScriptやら、大半の言語には何らかの形で行列を扱うライブラリがついています。行列計算を必要とする分野とは案外多いものなので、シェアの多い言語は自然とそういうライブラリを備えるようになるのでしょう。そこからさらに一歩進んで、行列を扱う言語機能を持った言語もあります。たとえばMatlabやそのOSS実装(ぽいもの)であるGNU Octaveとか、あるいはJuliaもそういう言語に含めてもいいかもしれません。

 さて、既存の大抵のプログラミング言語では行列を扱えるわけですが、既存の言語の行列の扱いには少し不満がありました。

  • 誤った行列同士の演算を静的に検出できない

 たとえば、行列積としては、

[1 2 3]  *  [4
                 5
                 6]

 というのはOKでも、

[1 2 3] * [4 5 6]

 というのは未定義なのではじいて欲しいのですが、こういうのを静的に検出できる言語が案外ないのです。実のところ、研究レベルではそういう話はままあるでしょうし、C++のテンプレートを使って依存型モドキを使えばそういう機能を実現できるでしょう。しかし、フルスペックの依存型を使うのはいかにも大げさです。なんかいい感じに行列のを型パラメタとして持つちょうどいい感じの言語が作れないかな、というのが一つです。

 皆さん、数学で習う行列って

[1 2 3
 4 5 6]

 て書きますよね(?)いや、もっと専門の分野では違うのかもしれませんが、まあ少なくとも行列を書き下したいときは、こんな風に二次元上に行列の要素を書きたいことは多いはずです。しかし、残念ながら、既存の言語で、こういう感じのレイアウトを良い感じで解釈して(上の例なら 3 * 3 行列として扱って欲しい)くれる言語はあまりありません。Juliaはそのような数少ない言語の一つですが、静的型付き言語ではないので、たとえば、

[1 2 3
 4 5]

 みたいな、型検査の段階ではじいて欲しいリテラルをはじけないのでダメということにします。

 これはやや無理くりなんですが、たとえば、以下のような行列リテラルMatrix<Int, 2, 2> て感じで型がついて欲しいなと私は思うのです。

[1 2
 3 4]

 しかし、そういう都合のいい言語は知る限りでは、ほとんどありません。

 という感じで、多少無理やりですが、理由をこじつけて、以上の要件を満たすプログラミング言語Matlikeを作ってみました。

Matlikeの機能

 というわけで、機能紹介です。

 実は、行列リテラルのパーザをいい感じに書いてみたいというのが一番大きな理由でしたので、これについてはかなり凝っています。

 たとえば、以下のように行列リテラルを書くと、 Matrix<Int, 2, 3> という型が付きます。

 [
 1 2 3
 4 5 6
] // Matrix<Int, 2, 3>

 ちなみに、これを見ればわかる通り、空白が要素間のセパレータになれる上に、改行が行セパレータになれるという仕様です。おかげで結構パーザを作るのに苦労したのですが、後述する型推論との兼ね合いで、たとえば、

val m = [
 1 2 3
 4 5 
]

 のような、行列としてなんかおかしいリテラル型推論の段階で、 2 != 3 みたいなメッセージが出て、はじかれます。

 さて、Matlikeでは行列をファーストクラスとして扱っています。ここでいうファーストクラスとは、行列を引数として渡したり、返したり、無名の行列が作れる程度の意味です。それに加えて、Matlikeの行列を表すMatrixMatrix<E, Row, Col>という形を取ります。RowColが整数であるというのがポイントで、そのおかげで依存型モドキぽいものが実現できています。

 たとえば、Matlikeで行列同士の積を表す演算子_*_ ですが、これを使って、以下のような関数を定義することができます。

def mult(x, y) = x _*_ y

 文法がなんだかScala風味ですが気にしないでください。このmult関数の型は以下のように推論されます。

def mult<A, B, C, D>(x: Matrix<A, B, C>, y: Matrix<A, C, D>): Matrix<A, B, D> = x _*_ y

 ここで、xyの内、要素型がAで一致していて、xの列数とyの行数も一致しているのがポイントです。Matlikeの型推論器はHindley-Milner型推論をテキトーに拡張したものなのえで、型注釈が一切なくても、こんな感じでいい感じで型を推論してくれます。型推論万歳(いや、現実問題、これでいいのかは微妙ですが)。

  • 誤った行列同士の演算を静的に検査できる

 これは機能というより、そういう型システムを作ったことによる恩恵なわけですが、上の方で例に出た

[1 2 3] * [4 5 6]

 なんて例は、1 != 3 て感じのメッセージが出て、型検査を通りません(現在の実装だと、unificationに失敗しただの何だのといったメッセージが出ますが、それはおいておきます)。

まとめ

 Qiitaに書いた記事の方はもうちょっと色々書いた気がするのですが、こんな感じで行列をなんかうまいこと取り扱えるプログラミング言語を作ってみたのでした。Qiitaの記事にも書いたのですが、これからは、こんな感じで(いや、私のはいい加減ですが)、ドメイン特化型の型システムをがんがん作っていくと色々恩恵が大きいのではないかと思う今日この頃です。

 ではでは。